Paroles

解纜す、大船あまた。
──ここ肥前長崎港のただなかは長雨ぞらの幽闇に海づら鈍み、悶々と檣けぶるたたずまひ、鎖のむせび、帆のうなり、伝馬のさけび、あるはまた阿蘭船なる黒奴が気も狂ほしき諸ごゑに、硝子切る音、うち湿り──嗚呼午後七時──ひとしきり、落居ぬ騒擾。
朧月か、眩ゆきばかり髪むすび紅き帯してあらはれぬ、春夜の納屋にいそいそと、あはれ、女子。
あかあかと据ゑし蝋燭薔薇潮す片頬にほてり、すずろけば夜霧火のごと、いづこにか林檎のあへぎ。
解纜す、大船あまた。
あかあかと日暮の街に吐血して落日喘ぐ寂寥に鐘鳴りわたり、陰々と、灰色重き曇日を死を告げ知らすせはしさに、響は絶えず天主より。──闇澹として二列、海波の鳴咽、赤の浮標、なかに黄ばめる帆は瘧に──嗚呼午後七時──わなわなとはためく恐怖。
嗚呼愉楽、朱塗の樽の差口抜き、酒つぐわかさ、玻璃器に古酒の薫香なみなみと……遠く人ごゑ。
やや暫時、瞳かがやき、髪かしげ、微笑みながらなに紅む、わかき女子。母屋にまた、おこる歓語……
解纜す、大船あまた。
──黄髪の伴天連信徒蹌踉と闇穴道を磔負ひ駆られゆくごと生ぬるき悔の唸順々に、流るる血しほ黒煙り動揺しつつ、印度、はた、南蛮、羅馬、目的はあれ、ただ生涯の船がかり、いづれは黄泉へ消えゆくや、──嗚呼午後七時──鬱憂の心の海に。
空に真赤な雲のいろ。玻璃に真赤な酒の色。なんでこの身が悲しかろ。空に真赤な雲のいろ。
Written by: ゆよゆっぺ a.k.a DJ'TEKINA//SOMETHING, 神尾 晋一郎, 間宮丈裕
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